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大阪高等裁判所 昭和29年(ネ)1442号 判決

控訴人 株式会社西島鉄工所

被控訴人 中田義一

主文

本件控訴は、これを棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、

控訴代理人において、控訴会社は、もと西島彌太郎と真砂吉太郎が中心となり、西島等経営の鉄工品仕上工場と、真砂等経営の鍛造工場とを統合するために、昭和二十四年五月十六日設立されたものであり、資本金五十万円、一株の金額百円、株式総数五千株を以て組織せられ、当初の株主は九名であり、その氏名及びその持株は、西島彌太郎二千株、西島益男八百株、坂本敏之百株、中西恭男百株、真砂吉太郎五百株、植村兼松五百株、田辺良一五百株中田力造百株被控訴人四百株であつた。ところで、植村兼松の株主たる地位は、同人の控訴会社に対する金十万円の貸金債権の存続中に限られ、その返済があつたときは、右持株を真砂吉太郎と西島彌太郎側のものに分譲する約定であり、又田辺良一、被控訴人の株主たる地位は、同人等が控訴会社の業務を担当している期間中に限られ、退社のときは右同様両名に譲渡する定めであつたところ、田辺は昭和二十四年十月、被控訴人は昭和二十七年九月各退社し、又植村の貸金債権は昭和二十五年五月返済せられたので、これと共に同人等の持株は、右約定に基き当然西島彌太郎、真砂吉太郎側の者に譲渡せられたのである。しかして、本件株主総会当時の株主は七名であつて、その氏名及び持株は、西島彌太郎二千二百五十株、西島益男千百株、坂本敏之百株、中西恭男百株、松本敏影百株、藤崎直義百株、真砂吉太郎千二百五十株であり、総会開催にあつては、控訴会社代表取締役西島彌太郎より右各株主に対し、口頭で総会招集の通知がなされ、右七名の株主中西島彌太郎、西島益男、坂本敏之、松本敏影、藤崎直義の五名が出席して、被控訴人主張の決議をしたのであつて、該決議の有効なことはいうまでもない。総会招集通知が、被控訴人、中田力造、田辺良一、植村兼松に対して、なされなかつたのは、同人等が前記の如く株主でなかつたからであつて、当然のことに属するが、かりに同人等が依然株主であつたとしても、株主の総数は前記七名に右三名を加えた十名になるところ、そのうち七名に対しては招集通知がなされ、株主五名その持株総数二千九百株にあたるものが出席して決議したのであるから、これを以て株主総会不成立といえないのは勿論である。しかのみならず、本訴は、真砂吉太郎がその後西島彌太郎と会社運営につき意見の対立を来し、取締役を解任せられるに至つた報復手段として、被控訴人の名をかりてこれを提起したものであり、しかも総会後一年を経過していて、取引の安全を害すること著しいものがあり、とうてい失当たるを免れないと述べた外、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

証拠〈省略〉

理由

控訴会社が、昭和二十四年五月十六日設立せられた、資本の額五十万円、発行済株式総数五千株の株式会社であること、その後昭和二十七年十一月十八日臨時株主総会において、同会社の発行する株式総数を二万株とする資本増加、定款変更及び役員の選任として西島彌太郎、西島益男、松本敏影を取締役、坂本敏之を監査役とする旨の決議があつたものとし、それに基き同年十二月二日変更登記がなされていることは、当事者間に争がない。

ところで、被控訴人は、右株主総会は、全く仮装のものに過ぎない。即ち被控訴人をはじめ、訴外真砂吉太郎、植村兼松、田辺良一、中西泰男、中田力造は、いずれも株主であるのに、総会招集の通知を受けたことはないから、かりに残余の株主たる西島彌太郎、西島益男、坂本敏之が集つて議決したとしても、これを以て総会の決議とすることはできないと主張するので、按ずるに、原審証人真砂吉太郎、同植村兼松、同中西泰男、当審証人田辺良一の各証言、原審並当審における被控訴人本人の供述を綜合すると、被控訴人主張の右被控訴人以下五名は、会社設立当初より株主であつて、その持株は、被控訴人四百株、真砂、植村、田辺各五百株、中西、中田各百株であること、ならびに右総会については、同人等に対し、全然その招集通知がなく、従つて同人等は右総会に出席せず、なんら決議に参与していないことが認められる。もつとも、この点につき原審証人西島益男、当審証人坂本敏之、原審並当審における控訴会社代表者西島彌太郎本人は、真砂、中西に対しては、西島益男を通じ、口頭で招集の通知をしたと供述しているが、右供述は前記証拠に照して信用し難いし、又元来総会の招集通知は書面を以てするを要すること商法第二三二条の文言に照して明らかであり、右は招集手続の明確を期するための要請であつて、これに反した口頭通知は、全然通知なきに等しいものというべきである。

なお、控訴人は、会社設立当時の特約に基き、被控訴人及び田辺は、会社業務の担当より離れて退社したとき、又植村は会社に対する融資の返済を受けたとき、いずれもその持株は、当然西島彌太郎及び真砂吉太郎側のものに移転せられたから、総会当時、同人等は既に株主でないと主張し、右証人西島、坂本、当審証人松本敏影、前記控訴会社代表者本人は、これに添うような供述をしているが、該供述も亦前認定に援用の各証拠と対比して容易に信用し難く、他に前認定を覆してこれを確認するに足る的確な証拠がないのみならず、本件株式につき、いまだに株券の発行がないことは当事者間に争がないのであるから、かくの如き株式譲渡は会社に対抗し得ないだけではなく、会社も亦これを認めることができないものであること、商法第二〇四条第二項の法意に照し、明らかなところであつて、控訴人の右主張は採用できない。

さらに、控訴人は、総会当時、訴件松本敏影、同藤崎直義が、西島益男より各百株宛の株式譲渡を受けて株主であつたと主張するが、同人等の株式取得は、前段記載の控訴人等三名の株式譲渡を前提とし、その株式が西島益男を経て、右両名に一部譲渡せられた関係に立つことは、前記証人西島益男の証言と弁論の全趣旨により推認し得るところであつて、被控訴人等の株式譲渡が認められないこと前記の如くなる以上、右両名の株式取得も亦これを肯定し難きは当然であるのみならず、右譲渡も亦株券発行前にかかり、その効力を認め難きこと前説示のとおりであるから、控訴人の右主張も採用の余地がない。

すると、総会当時における株主は、前認定の被控訴人等六名に、当事者間に争のない西島彌太郎、西島益男、坂本敏之を加えた九名であるというべきであつて、右のうち西島益男、坂本敏之両名の株主に対し、控訴人主張の口頭による総会招集通知がなされたとしても、右は通知なきに等しいこと前説示のとおりであるのみならず、かりにその点は暫く措くとしても、前認定によつて明らかな如く、招集洩れの株主が、全株主九名のうち三分の二たる六名に達し、その持株は、総株式数五千株の約半数たる二千百株に及ぶのであるから、右は全株主に対し招集通知をしなかつたのも同然であり、たとえ西島等三名の株主が適宜会合して決議したとしても、親子間の相談に等しく(西島益男、坂本敏之が代表取締役西島彌太郎の実子であることは、争がない。)、これを以て株主総会が成立し、その決議があつたものとは、社会観念上とうてい認め難い。

次に、控訴会社の取締役会が、昭和二十七年十一月十八日、代表取締役として西島彌太郎の選任及び、新株の額面無額面の別、種類、数等新株発行に関する決議をしたことは、当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一、三、四号証、前記控訴会社代表者本人の供述に、右認定の事実を綜合すると、右取締役会は、西島彌太郎、西島益男、松本敏影が、前記仮装総会の決議によつて取締役に就任したものとして、これを開催し、総会の決議を前提として、右の如き取締役会の決議をしたものであることが明白であるから、総会の決議が認められない以上、該取締役会の決議も亦その効力を生ずるに由なきはいうまでもない。

控訴人は、本訴は、訴外真砂吉太郎が、被控訴人の名をかりて提起したものであると主張するが、これを認むべき証拠は全然ない。又本件の如き株主総会決議不存在確認の請求にあつては、別に出訴期間の定めがないのであるから、本訴が総会後一年を経過した後に提起せられたものであるからと言つて、これを排斥すべき法律上の根拠はない。従つてこの点に関する控訴人の所論はいずれも理由がないというべきである。

さすれば、控訴人に対し、前記株主総会の決議不存在ならびに取締役会の決議無効の各確認を求める被控訴人の本訴請求は、これを認容すべく、右と同趣旨に出でた原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条及び第八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉村正道 大田外一 金田宇佐夫)

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